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名古屋地方裁判所 昭和51年(行ウ)47号 判決 1980年8月29日

愛知県津島市天王通り六丁目五五番地

原告

神野浅義

右訴訟代理人弁護士

小谷平

愛知県津島市良王町二丁目三一番地一

被告

津島税務署長 森浩矣

右指定代理人

松島節子

川村俊一

大西昇一郎

西村重隆

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して、昭和四七年三月六日付でなした昭和四三年、四五年分所得税の各更正処分及び各過少申告加算税の賦課決定処分(以下本件各更正処分等という)をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

(請求原因)

一  本件各更正処分等のなされるに至った経緯

1 確定申告及び修正申告

原告は、昭和四三年分所得税について同四四年三月一四日、同四四年分所得税について同四五年三月一五日、同四五年分所得税について同四六年三月一五日に、別紙一ないし三の課税処分表の「確定申告額」欄記載のとおり確定申告をなした。

次いで原告は、昭和四五年七月一四日、昭和四三年分及び同四四年分の所得税について、別紙一及び二の課税処分表の「修正申告額」欄記載のとおりの修正申告をした。

2 本件各更正処分

然るに、被告は、国税通則法二四条の規定により、別紙一ないし三の課税処分表の「更正及び賦課決定額」欄記載のとおり総所得金額及び所得税額を更正するとともに、同法六五条所定の過少申告加算税を同法三二条の規定により賦課決定し、昭和四七年三月六日付で、それぞれその旨原告に通知した。

3 異議申立及び決定

原告は、右各処分を不服として、昭和四七年四月二四日、被告に対して異議申立をしたが、被告は、原告の右申立には理由がないとしてこれを棄却する決定をなし、同年七月八日付でその旨原告に通知した。

4 審査請求及び裁決

原告は、右異議決定を不服として、昭和四七年八月三日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同所長は、原告の右請求は理由がないとして、昭和五一年六月一七日付でこれを棄却する裁決をなし、その旨同年八月二七日付をもって原告に通知した。

二  本件各更正処分等の違法性

しかしながら、原告の本件各係争年分の真実の総所得金額は、原告のした前記各確定申告ないし各修正申告のとおりであるから、本件各更正処分等は、原告の総所得金額を過大に認定した違法がある。

(請求原因に対する認否及び被告の主張)

一  請求原因に対する認否

第一項の事実は認めるが、第二項の主張は後記のとおり争う。

二  本件各更正処分等の正当性

被告のした調査によれば、原告の昭和四三年分、四四年分、四五年分の各総所得金額は、別紙四の「総所得金額計算表」のとおりであり、原告のした前記各申告と異なるので、本件各更正処分等をしたのであり、右各処分は、もとより違法である。これを詳述すれば、次のとおりである。

(昭和四三年分)

原告の昭和四三年分における総所得金額は、別紙四記載のとおり合計一〇七、一三五、五二〇円である。

1  配当所得金額九三七、五六二円

原告申告額のとおり、津島瓦斯株式会社等からの配当所得金の合計は九三七、五六二円である。

2  不動産所得金額一、九八八、五〇〇円

原告申告額のとおり、必要計費を差引いた所得金額は一、九八八、五〇〇円である。

3  給与所得金額八、七三一、八二〇円

(一) 収入金額八、九九六、八二〇円

原告は、申告にかかる給与等の収入金額八、一五八、五〇〇円以外に、学校法人神野学園(以下神野学園という)から「旅費及び交通費」の名目で月額六九、八六〇円、年間八三八、三二〇円を受領していたが、原告から神野学園に対し、右金員相当額を旅費及び交通費として現実に支出したことを証する明細書、領収書等の資料は一切提出されておらず、毎月一定金額の支給を受け、現実に支出した金員との過不足の精算等は一切なされていないから、右金員は、所得税法九条一項四号所定の職務遂行のための旅行について、支給される金員で、その旅行について通常必要と認められるものに該当せず、非課税所得とはならない。従って、右金員は原告の給与等に係る収入金額に算入されるべきものである。そこで右金額を原告の申告額に加算すると、給与等の内訳は次のとおりとなる。

<省略>

(二) 給与所得控除額二六五、〇〇〇円

昭和四三年法二一号による改正後の所得税法二八条三項及び同法附則三条の規定により、原告の給与所得控除額は二六五、〇〇〇円である。

(一)から(二)を控除すると八、七三一、八二〇円となる。

4  譲渡所得金額九四、九六一、七九六円

原告の譲渡所得金額は、別紙五の「譲渡物件目録」記載の第一ないし第三の各土地(以下、第一ないし第三物件と略称する)を譲渡して得た総収入金額から、当該譲渡物件の取得費及び譲渡に要した費用の合計額を控除し、その残額から所得税法三三条三項所定の譲渡所得の特別控除額を控除した金額である。

(一) 総収入金額一一八、〇一一、〇〇〇円

(1) 第一物件の収入金額八八、七〇四、〇〇〇円

原告は、昭和四三年七月一日、神野学園に対し、第一物件を八八、七〇四、〇〇〇円で譲渡した。

(2) 第二物件の収入金額四、七四五、四〇〇円

原告は、昭和四三年七月一日、神野学園に対し、第二物件を四、七四五、〇〇〇円で譲渡した。

(3) 第三物件の収入金額二四、五六一、六〇〇円

原告は、昭和四三年七月一二日及び同年一二月一〇日、神野学園に対し、第三物件を二四、五六一、六〇〇円で譲渡した。

(二) 取得費一九、九二九、二七二円

(1) 第一物件の取得費一〇、六一八、五一三円

原告は、昭和四一年に第一物件及び第二物件を合計一一、一八六、五七二円で取得したもので、右取得費を第一物件及び第二物件の地積で按分すると第一物件の取得費は一〇、六一八、五一三円である。

<省略>

(2) 第二物件の取得費五六八、〇五九円

前述のとおり第一物件と共に一一、一八六、五七二円で取得したもので、これを地積によって按分すると第二物件の取得費は五六八、〇五九円である。

<省略>

(3) 第三物件の取得費八、七四二、七〇〇円

原告が、旧地主に対し支払った買収金額七、六〇八、三〇〇円及び地上物件補償費六六、二〇〇円と、仲介人訴外兼松港へ支払った仲介手数料一、〇六八、二〇〇円の合計は八、七四二、七〇〇円である。

(三) 譲渡に要した費用二、八一九、九三二円

(1) 整地費用二、七七四、九三二円

原告が、第一物件を整地するため訴外坂祝産業株式会社へ整地費用として支払った二、七七四、九三二円である。

(2) その他の費用四五、〇〇〇円

第一物件ないし第三物件の売買契約に際し、必要な印紙代、代書費用等の合計は、四五、〇〇〇円である。

(四) 譲渡所得の特別控除額三〇〇、〇〇〇円

昭和四二年法二〇号による改正後の所得税法三三条四項所定の本件譲渡所得の特別控除額は三〇〇、〇〇〇円である。

5  雑所得金額五一五、八四二円

その内容は次表のとおりである。

<省略>

(昭和四四年分)

原告の昭和四四年分における総所得金額は以下述べる各種所得金額の合計一九、四六七、二〇六円である。

1  配当所得金額九二四、六二五円

原告申告額のとおり、津島瓦斯株式会社等からの配当収入の合計は九二四、六二五円である。

2  不動産所得金額一、九七八、八〇〇円

原告申告額のとおり必要経費を差引いた所得金額は一、九七八、八〇〇円である。

3  給与所得金額一〇、八二五、三二〇円

(一) 収入金額一一、一七三、三二〇円

原告は、申告にかかる給与等の収入金額一〇、三三五、〇〇〇円以外に、神野学園から、一月から八月まで「旅費及び交通費」の名目で、また九月から一二月までの間は「研究費」の名目で、それぞれ月額六九、八六〇円、年間にして八三八、三二〇円が原告に支給されていた。右旅費及び交通費については昭和四三年分と同様の理由により、また、研究費についても、原告から神野学園に対し、右金員相当額を研究費として現実に支出した金員との過不足の精算がなされていないから、右研究費名下の金員は、所得税法第九条一項四号の非課税所得に該当しない。そこでこれらを原告の申告額に加算すると、給与等の内訳は次のとおりである。

<省略>

(二) 給与所得控除額三四八、〇〇〇円

昭和四五年法一四号改正による所得税法二八条三項及び同法附則三条の規定により、本年度分における原告の給与所得控除額は三四八、〇〇〇円である。

4  雑所得金額五、七三八、四六一円

(一) 収入金額五、九四二、五六九円、次表のとおり。

<省略>

(二) 必要経費二〇四、一〇八円

原告が神野学園へ貸付けていた貸金の一部は、金融機関からの借入金であるので、当該金融機関へ原告が支払った利息二〇四、一〇八円が必要経費となる。

右(一)から(二)を控除すると五、七三八、四六一円となる。

(昭和四五年分)

原告の昭和四五年分における総所得金額は、以下述べる各種所得金額の合計二一、六二一、五五四円である。

1  配当所得金額一、七五四、三一二円

原告申告額のとおり、津島瓦斯株式会社等からの配当所得金の合計は一、七五四、三一二円である。

2  不動産所得金額一、九七八、八〇〇円

原告申告額のとおり必要経費を差引いた所得金額は、一、九七八、八〇〇円である。

3  給与所得金額一二、五六七、八二〇円

(一) 収入金額一三、〇三五、八二〇円

原告は、申告にかかる給与等の収入金額一二、一九七、五〇〇円以外に神野学園から「研究費」の名目で、月額六九、八六〇円、年間八三八、三二〇円が原告に支給されていたが、被告は昭和四四年分と同様の理由で非課税所得にあたらないと認め右金額を原告の給与所得に算入した。本年分における原告の給与所得の内訳は次表のとおりである。

<省略>

(二) 給与所得控除額四六八、〇〇〇円

昭和四六年法三六号改正による所得税法二八条三項及び同法附則三条の規定により原告の給与所得控除額は四六八、〇〇〇円である。

(一)から(二)を控除すると一二、五六七、八二〇円となる。

4  雑所得金額五、三二〇、六二二円

(一) 収入金額五、五〇三、二三七円

<省略>

(二) 必要経費一八二、六一五円

原告は、神野学園へ貸付けていた資金の一部を、金融機関から借入れていたので、当該金融機関への支払利息一八二、六一五円が必要経費となる。

右(一)から(二)を控除すると五、三二〇、六二二円となる。

三 本件各更正処分等の適法性

以上のとおり、原告の本件係争各年分の総所得金額は、別紙四「総所得金額計算表」記載の金額となるから、右金額の範囲内でなした本件各更正処分等は適法である。

(被告の主張に対する原告の認否及び主張)

一  被告の主張に対する原告の認否

(昭和四三年分)

1  配当所得金額は認める。

2  不動産所得金額は認める。

3  給与所得金額は、収入金額中神野学園からの、旅費、交通費名下の支給額八三八、三二〇円につき、後記二の4のとおり給与所得にあたることを争い、その余はすべて認める。

4  譲渡所得については、第一ないし第三物件を神野学園に譲渡した事実及び右各物件の譲渡所得控除額、第一、第二物件の取得費が被告主張のとおりであることは認めるが、その余は、後記の1ないし3のとおり争う。

5  雑所得金額は認める。

(昭和四四年分)

1  配当所得金額は認める。

2  不動産所得金額は認める。

3  給与所得金額は、収入金額中神野学園の旅費、交通費、研究費名下の支給額八三八、三二〇円につき後記の4のとおり給与所得にあたることを争い、その余はすべて認める。

4  雑所得金額は認める。

(昭和四五年分)

1  配当所得金額は認める。

2  不動産所得金額は認める。

3  給与所得金額は、収入金額中神野学園からの研究費名下の支給額八三八、三二〇円につき、後記二の4のとおり給与所得にあたることを争い、その余はすべて認める。

4  雑所得金額は認める。

二 原告の主張

1  第一物件の譲渡価額は二〇、〇〇〇、〇〇〇円であることについて。

(一) 昭和四三年、神野学園は、その経営にかかる中日本自動車短期大学の校舎を増設することになり、その敷地として、原告所有にかかる右土地を譲受けることになったが、昭和四二年四月一日に設立されたばかりの神野学園は、その財政的基礎が確立しておらず、資金繰が苦しかった。

そこで、右土地の購入代金は、原告が右土地を取消したときの価額である二〇、〇〇〇、〇〇〇円とすることに原告との間で合意したが、一方私学振興会から敷地購入費等の融資をできるだけ多額に受けるためには、右振興会に対する融資申請書類上右土地の購入代金額を、真実の代金額より相当程度高額に記載することが必要であった。

このような事情から、神野学園は原告と相談の上、右土地の真実の購入代金は前記のとおり二〇、〇〇〇、〇〇〇円とする。但し、私学振興会に対する融資申請の関係で名目上の購入代金を八八、七〇四、〇〇〇円となし、その差額六八、七〇四、〇〇〇円は、神野学園の会計帳簿上は、便宜原告に対する未払金として計上しておくことに決定し、右決定に基づき、神野学園は昭和四三年七月一日付で原告との間に、第一物件の売買代金を八八、七〇四、〇〇〇円とする仮装の売買契約書(乙第二号証)を作成し、そのころ、これを私学振興会に提出して、融資申請をなし、合計六二、〇〇〇、〇〇〇円(土地購入代三八、〇〇〇、〇〇〇円、建物建築代二四、〇〇〇、〇〇〇円)の融資を受けることに成功した。

そして、昭和四三年一二月一六日の理事会は、以上の学園執行部の措置を承認する旨決議した。

(二) 原告が右仮装の売買契約書の作成に同意した経緯は、次のとおりである。即ち、原告は右仮装の売買契約書が私学振興会に提出された場合、税務署が、右契約書により、第一物件の譲渡代金を八八、七〇四、〇〇〇円と認定し、これを基に多額の譲渡所得税を原告に対し課するような事態の発生をおそれ、原告は、神野学園経理担当者と共に、昭和四二年一〇月ころから翌年末にかけて津島税務署に、二、三回赴き、当時の署長真野景一に右仮装経理の事情を述べて、税務指導を求めたところ、「そのような事情があるなら、仮装の売買契約書に基づく課税はされない」旨の指導があったので、原告はぽ昭和四三年七月一日付の前記仮装の売買契約書の作成に同意し、これに署名捺印したのである。

(三) 以上のとおり、第一物件の真実の譲渡価格は二〇、〇〇〇、〇〇〇円であり、前記売買契約書(乙第二号証)は、代金額を六八、七〇四、〇〇〇円上乗せした仮装の書類であり、このことは、原告において税務当局に口頭申告し、税務当局から右売買契約書に基づく課税はされない旨の税務指導を受けており、原告は現在に至るまで、神野学園から本件の売却代金として、二〇、〇〇〇、〇〇〇円を受領したのみであり、神野学園も右土地に関し、原告に対し、二〇、〇〇〇、〇〇〇円を超える土地購入代金債務を負担していない。

2  第二、第三物件の譲渡価額は、それぞれ五六八、〇五九円、一四、四四二、七〇〇円であることについて。

(一) 原告所有にかかる第二、第三物件は、神野学園との間で中日本自動車短大の自動車コース造成用地とする目的で、神野学園所有にかかる岐阜県加茂郡坂祝町取組字道下九番地、同所一一番の一、同所一三番の合計三筆の土地(以下「道下の土地」という。)と交換する旨の契約が成立し、右契約に基づいて交換したものである。

(二) 右交換契約における原告所有地の交換価格は、第二物件五六八、〇五九円、第三物件一四、四四二、七〇〇円(いずれも原告の取得価格)の合計一五、〇一〇、七五九円であり、神野学園所有の道下の土地の交換価格は、右価格に一四、二九六、二四一円を加えた二九、三〇七、〇〇〇円であった。従って原告から神野学園に対し、右交換差額金を支払う約定が存した。

然し、道下の土地は、当時神野学園と旧地主との間に係争があり、神野学園の所有名義になっていなかったので、本件交換契約に基づき道下の土地を原告所有名義に移転登記することができなかったので、原告は神野学園に右交換差額金を支払うことをしなかった。

その後、道下の土地は、昭和四七年一月二九日に至り、原告所有名義に所有権移転登記手続がなされたが、原告は、未だ交換差額金を神野学園に支払っていない。

なお、第二物件の交換価額は土地売買契約書(乙第五号証)、領収証(乙第七号証)には四、七四五、四〇〇円と記載され、第三物件の交換価額は各領収証(乙第九号証の一ないし三)の合計二三、七八四、五〇〇円と記載されているが、これら書類は、いずれも私学振興会に対する融資申請書類として便宜作成された書類であって、本件交換契約における真実の価格を表示したものではない。

3  第三物件の取得費について。

第三物件の取得費は、被告主張額八、七四二、七〇〇円の外に、同物件を原告が、買収した昭和四二年当時、同物件の所在する岐阜県加茂郡坂祝町の町長であり、かつ神野学園の理事でもあった訴外竹内丈夫に対し、原告は、土地買収諸雑費、仲介料等として五、七〇〇、〇〇〇円を支払っているので、第三物件の土地取得費は、右五、七〇〇、〇〇〇円を加算した一四、四四二、七〇〇円が正しい。

4  被告主張の給与所得中神野学園よりの支給分について。

昭和四三年から同四五年に至るまでの間、原告が神野学園より月額六九、八六〇円、年間八三八、三二〇円を「旅費及び交通費」若しくは「研究費」の名目で受領していたことは、被告主張のとおりである。しかし、これら金員の所得者は当時の神野学園理事兼中日本自動車短期大学学長訴外佐藤観次郎衆議院議員(以下「訴外佐藤」という。)であって、原告ではない。即ち、訴外佐藤のための諸経費として月額六九、八六〇円を神野学園で負担することになったが、その経理処理は、当時理事長であった原告の専決交際費枠(年間二、〇〇〇、〇〇〇円)のうちで処理することになり、原告は神野学園から「交際費」、「研究費」等の名目でこれら金員を一旦受領した形をとったうえ、これらを訴外佐藤の諸経費として同人に支払っていたのである。当時の津島税務署及び名古屋国税局係官は、原告の申告により右事情を知り了解していたのである。

5  本件更正処分等が税務指導に背反することについて。

以上に述べたとおり、第一物件の譲渡価格についての仮装売買契約書の件や、神野学園の旅費、交通費、研究費名下の仮装経理については、すべて、当時の税務当局の税務指導の下になされたのであり、税務当局が前言をひるがえし、本件更正処分等に及ぶということは、著しく原告に不利益な取扱いというべく、また国民の税務指導に対する信頼を確保する法的安定性の見地からすれば、著しく妥当を欠く違法な処分というべきである。

(原告の主張に対する被告の反論)

(譲渡所得について)

一  第一物件の譲渡価格について

1 原告は、第一物件の売買契約書(乙第二号証)中、代金額八八、七〇四、〇〇〇円の部分は、内容虚偽の仮装契約である趣旨の主張をするのが、およそ土地売買契約書中の代金額のように、当該契約書の重要な部分の内容が虚偽か否かは、(イ)契約書記載の代金額と他の関係帳書類の記載金額との矛盾の有無、(ロ)契約書記載の代金額と目的物件の客観的価格との関係、(ハ)もし内容虚偽とすれば、そのような代金額を記載しなければならなかった動機の有無ないしその合理性等を総合的に判断して決せらるべきである。これを本件について見るに

(一) 神野学園は、第一物件を被告主張額で資産勘定及び固定資産台帳(乙第三号証)に計上しており、また第一物件買売受代金中原告に対する未払金を負債勘定に計上しており、昭和四三年度の決算書(乙第一号証)にも資産として第一物件を計上し、その財産目録内訳書には、第一物件の価格を売買契約書(乙第二号証)記載どおりの八八、七〇四、〇〇〇円と記帳している。

このように、神野学園における関係帳簿の記載内容は、右売買契約書の記載内容とすべて符合しているのであり、このことは、他に特段の事情がないかぎり、右売買契約書中の代金額は虚偽仮装のものでなく、真実の代金額を示すものと認めるべきである。

また、昭和四三年一二月一六日付神野学園理事会決議録(甲第一号証)なる文書中に譲渡価格を二〇、〇〇〇、〇〇〇円とする趣旨の文言が存するが、一方、八八、七〇四、〇〇〇円との差額は、原告に対する未払金として計上する旨の文言も存し、右決議録は、その内容に一貫性を欠き第一物件の真実の譲渡価格は二〇、〇〇〇、〇〇〇円であるとの原告主張を維持するに足りる資料とは、なし難いものというべきである。

(二) 神野学園が本件係争年当時、原告及び訴外東海近畿興業から購入した第一物件の周辺の土地の購入契約単価は、固定資産台帳(乙第三号証、第六号証、第八号証)によれば、いずれも一平方メートルあたり三、〇〇〇円を超えており、これらと対比すると、本件第一物件の売買契約書記載代金額の基礎となる契約単価一平方メートルあたり、三、三〇〇円は極めて妥当な取引価額というべきであり、右売買契約書記載の代金額は、目的物件の客観的な取引価格を示し、合理性がある。もし、原告主張のように第一物件の代金額が二〇、〇〇〇、〇〇〇円とすると、一平方メートルあたりの単価は約七四四円となり、これは近隣土地の取引価格に比し、極めて低く、原告主張価格は不自然、不合理である。

(三) 原告は、売買契約書中代金額を仮装した動機として、昭和四二年一〇月ころから翌年末にかけて、津島税務署長真野に事情を述べて行政指導を受けた結果、仮装売買契約書に基づく課税はされないとの指導があったと主張するけれども当時津島税務署長が、右のような指導をした事実は存しない(ちなみに、昭和四三年七月一〇日から同四五年七月九日の間の津島税務署長は天野重夫である。)。

また、原告は、右のように代金を仮装した動機として、私学振興会からの融資をできるだけ多額に受けるため、右振興会に対する融資申請書類の一つである売買契約書の代金額を水増する必要があった趣旨の主張をするけれども、融資申請書類ではない前記決算書(乙第一号証)、固定資産台帳(乙第三号証)まで仮装する必要はないのであって、原告主張の右動機は、合理性を欠くというべきである。

(四) 被告が第一物件の譲渡価格を八八、七〇四、〇〇〇円と認定した理由

(イ) 土地売買契約書(乙第二号証)、決算書(乙第一号証)、固定資産台帳写(乙第三号証)等の関係書類がすべて八八、七〇四、〇〇〇円と記載されていること。

(ロ) 原告に対する未払金の決済状況

神野学園の昭和四四年度決算書(乙第一九号証)によれば、原告に対する第一物件の土地買受代金の未払金は、昭和四五年三月末現在で三六、七九八、九二九円と計上されており、右記載によれば原告は、第一物件の譲渡代金中五一、九〇五、〇七一円を昭和四五年三月三一日までに受領していることになるところ、右金額のうち本訴において原告が受領したことを自認している二〇、〇〇〇、〇〇〇円を除いた三一、九〇五、〇七一円については、被告の調査によれば、原告が第三者から預っていた神野学園に対する寄付金等と相殺しているのであり、昭和四五年三月末現在における未払金もその後右と同様の方法により決済されたと推認できる。

以上(イ)(ロ)の理由に加えて、前項に述べた売買契約書(乙第二号証)記載の代金額が虚偽仮装であるとする原告の主張に合理性が認められないことから、被告は、第一物件の譲渡価格を八八、七〇四、〇〇〇円と認定したのであり、右認定に誤りはない。

2 低額譲渡の予備的主張について

所得税法五九条一項、同法施行令一六九条によれば、法人に対する資産の譲渡については、その時における時価の二分の一に満たない金額により売買が行われた場合、譲渡所得金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により資産の譲渡があったものとみなすと規定しており、右のように、法人に対する低額譲渡については、その譲渡価額の計算を時価によることにしている。

従って、仮に、第一物件の譲渡価額が原告主張のように二〇、〇〇〇、〇〇〇円(一平方メートルあたり約七四四円)であったとしても、当時の一平方メートルあたりの時価相当額は、次に述べるように三、三〇〇円であるから、右法条の適用を受け、売買契約書に記載された金額(一平方メートルあたり三、三〇〇円)と同額が収入金額となる。それ故、本件処分は何ら違法ではなく、原告の主張は理由がない。

(一) 第一物件は、既に学校用地として整備され、整備後に売買がなされ、中央相互銀行関支店の担当者も一平方メートルあたり三、三〇〇円と評価していた。

(二) 第一物件の隣接地である岐阜県加茂郡坂祝村深萱狐岩一三〇一の六(原告が表示登記の際、岐阜地方法務局美濃加茂出張所に提出した附属書類の写し(乙第二八号証)によれば、第一物件と隣接地とは、形状や道路の関係等からみて、同等の土地というべきである。)が、第一物件の売買日の約一年前に一平方メートルあたり三、〇三〇円で売買されており、これを基準にして地価上昇率(一三・四パーセント)を勘案すると、本件売買当時の第一物件の時価は一平方メートルあたり三、四三六円(三、〇三〇円×一・一三四)となり、前項の中央相互銀行の評価三、三〇〇円は第一物件の適正な時価と認められる。

二  第二、第三物件の譲渡価格について

第二、第三物件は、原告が神野学園に代金二九、三〇七、〇〇〇円で譲渡したものであり、原告主張のように、道下の土地と交換したものではない。即ち、原告は、昭和四三年五月三一日道下の土地を地主の訴外小川たまから買い受け、昭和四七年一月二九日付でその旨の所有権移転登記を経由しているのである。但し、原告の訴外小川たまに対する右代金債務は、神野学園が原告に対し負担する第二、第三物件の代金債務の一部と振替え決済することとし、神野学園が訴外小川たまに対し立替支払った(但し実際の支払者は神野学園の出入業者訴外東海近畿工業株式会社(以下「東海近畿工業」という。)である)。

その後道下の土地は、昭和四八年九月二五日に原告から神野学園へ売買名下で譲渡され、昭和五一年二月一四日その旨の所有権移転登記が了されている。

三 第三物件の取得費について

原告は、第三物件の取得費について、被告主張額のほか、当時、神野学園の理事であった坂祝村村長訴外竹内丈夫に対し斡施協力費名下に五、七〇〇、〇〇〇円を支払った旨主張する。

しかしながら、次の理由により原告の右主張は理由がない。

原告は、被告が原告の確定申告の当否について調査に着手した昭和四六年一〇月ごろ以降審査請求の審理に至るまで、訴外竹内丈夫の死亡前は、同人に斡施協力費を支払った旨の主張は一切しなかった。

ところが、原告は、訴外竹内丈夫が昭和五〇年一〇月二日に死亡するや、昭和五一年五月一五日、審査請求の審理の過程で、突然訴外竹内丈夫に斡施協力費二、〇〇〇、〇〇〇円を支払ったと主張し、ついで、本訴において右二、〇〇〇、〇〇〇円を五、七〇〇、〇〇〇円に変更して主張するに至った。

このような原告の態度に徴すると、原告の右主張はたやすく信用できないのみならず、五、七〇〇、〇〇〇円という金額は、第三物件の取得費八、七四二、七〇〇円の約六〇パーセントに相当し、右のような多額の斡施協力費は通常の取引慣行に反する点からも原告の右主張は、合理性を欠くというべきである。

(給与所得について)

原告は、「旅費及び交通費」、「研究費」名下に神野学園からの被告主張額の金員受領の事実を認めながら、右は会計処理上の名目だけのもので、真実の受領者は訴外佐藤であり、同人の諸経費に充当されていた旨主張する。

1  しかしながら、神野学園は原告に対する右支給とは別個に、訴外佐藤自身に対するものとして昭和四三年一月から同年一二月までは月額二〇、〇〇〇円、昭和四四年一月から同人が死亡した昭和四五年三月までは月額一〇、〇〇〇円を「旅費交通費」もしくは「研究費」の名目で支給し、同学園の帳簿にその旨の記帳が存するのであるから、右八三八、三二〇円(月額六九、八六〇円)についてのみ、原告あてに支給した旨の会計処理をしなければならない合理的理由を見出すことができない。

また、原告に対する月額六九、八六〇円の支給は、昭和四五年三月三日に訴外佐藤が死亡した後もなされているのであり、このことだけからみても原告の主張は理由がないというべきである。

2  また、神野学園は、原告及び訴外佐藤以下の理事に対しても、同様の名目で給与の支給を行っていたが、被告は、原告及び訴外佐藤並びにそれ以外の理事に対する昭和四三年一月から昭和四六年一一月まで(後記自主納付分を除く)の支給総額七、五五三、四二〇円(その月額合計は昭和四三年四月までは毎月一六九、八六〇円、同年五月から昭和四六年三月までは毎月一五九、八六〇円、同年四月以降は毎月二二九、七二〇円)が給与所得に該当するとして、昭和四七年三月三日、神野学園に対し、原泉徴収税額九八六、七九六円について国税通則法三六条一項二号の規定により納税告知を行った。しかし、神野学園は、右納税告知に対し異議申立、審査請求を行ったが、いずれも棄却され、法定期間内に抗告訴訟の提起をしなかったため、右告知処分は、神野学園・被告間において既に不可争的なものに確定している。更に、神野学園は、原告に対する支給分についてのみ、昭和四六年八月から給与所得として源泉徴収税額を自主的に納付している。

3  以上の事実によれば、原告に対する本件係争各年度における月額六九、八六〇円の支給は、名実共に原告自身に対する給与として支給されたものというべきであり、原告は、神野学園から各年八三八、三二〇円の給与所得を得ていたものと認められる。

(本件税務調査等の手続について)

原告に対する本件各係争年度分の調査は、昭和四六年一〇月ころから開始されたが、原告が調査に協力しないため昭和四七年二月に至るも進捗せず、そのうち原告が刑事被疑事件により身柄拘束されたため、原告から直接事情聴取することができなくなったがその代りに原告の長男神野哲久等に面接し、原告側の主張、申立を十分聴取して行ったものである。

そして、税務当局は、原告主張のような、税務指導をなした事実は全くなく、この点に関する原告の主張は失当である。

(被告の予備的主張に対する原告の反論)

被告は、仮に、第一物件の譲渡価額が二〇、〇〇〇、〇〇〇円であったとしても、低額譲渡に該当すると主張しているが、被告は、当初の調査から今日に至るまで低額譲渡と認定するための第一物件の時価の調査は一切していない。

低額譲渡と認定するためには、第一物件の土地の鑑定評価を要するところ、被告は、第一物件の隣接地の売買事例一例のみから、第一物件の時価を認定しているのであって、このような不十分な調査で、低額譲渡であるとして認定課税することは許されない。

また、被告は中央相互銀行関支店の担当者が第一物件の土地について一平方メートルあたり三、三〇〇円と評価していたと主張するが、この評価は、神野学園が私学振興会に鑑定評価書を提出するために同銀行に依頼したものであって、その提出目的にそうよう評価したものであるから適正な鑑定評価とは言えない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証ないし第三号証提出、証人堀田茂、同大口竹吉、同真野景一、同森田浩嗣、同深津進の各証言及び原告本人尋問の結果各援用。

2  乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告

1  乙第一号証ないし第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇号証ないし第二九号証提出、証人深津進の証言援用。

2  甲号各証の成立はいずれも知らない。

理由

一、本件各更正処分等の経緯及び本件係争各年度における原告の総所得金額中配当所得、不動産所得、雑所得が被告主張のとおりであること、給与所得金額中、神野学園支給分を除くその余の給与所得の額が被告主張のとおりであること、譲渡所得につき、原告が第一ないし第三物件を神野学園に譲渡したこと(但し、第二、第三物件が売買か交換かの点は除く)、右各物件の譲渡に要した費用、譲渡所得控除額、第一、第二物件の取得費が被告主張のとおりであること、以上の事実は、当事者間に争いがなく、別紙一ないし三によれば所得控除金額については、本件各更正処分等において原告の確定ないし修正申告額を超える額を被告が認めていることが明らかである。これら事実からすれば、本件係争各年度における原告の総所得金額中の争点は、(一)第一ないし第三物件の譲渡価格、(二)第三物件の取得費、(三)給与所得中神野学園支給分、以上の三点に帰着するから、以下右各争点について被告主張額の当否を審按する。

二、第一ないし第三物件の譲渡価格について

(一)  第一物件について

成立に争いのない乙第二号証によれば、昭和四三年七月一日付で、原告と神野学園代表理事堀田茂との間に、第一物件を中日本自動車短期大学学校用地とするため代金を八八、七〇四、〇〇〇円と定め、原告が同学園に売渡す旨を記載した土地売買契約書と題する書面が存することが認められる。

原告は、右契約書中、代金額は、契約当事者談合の上真実の代金額二〇、〇〇〇、〇〇〇円に六八、七〇四、〇〇〇円を水増したもので、右契約書は内容虚偽の仮装契約書である旨主張し、被告はこれを争い、右契約書記載の内容どおりに第一物件の譲渡価格は定められたもので水増部分はなく、仮装契約書ではない旨主張する。

そこで考えるに、一般に、成立について当事者間に争いのない土地売買契約書中代金額の記載に水増された仮装部分が存するか否かを判断するについては、「(イ)契約書記載の金額と、売買当事者の会計書類中該当欄記載金額との異同の有無(一方が法人のときは、特に、決算書、財産目録等の記載との異同の有無)。(ロ)契約書記載の売買目的物件の適正な時価との対比。(ハ)契約書作成の経緯の詳細。(ニ)前記会計書類上代金の決済状況の記載内容、ないしこれを裏付けるに足りる資料の存否」等を総合的に考察することを要することは、多言を要しない。

よって以下右見地に立って考察する。

(1)  神野学園の会計書類の記載内容

成立に争いのない乙第一号証、第三号証によれば、第一物件の買主である学校法人神野学園の昭和四三年度決算書の財産目録内訳書中資産の部土地欄に第一物件価格として八八、七〇四、〇〇〇円の記載が存すること、右記載価格は、同年度の貸借対照表中資産の部の土地勘定に、他の土地の価格と合算の上計上されていること、同学園の固定資産台帳にも、第一物件の価格は、八八、七〇四、〇〇〇円と記載されていること、以上の事実が認められ、他にこれに反する証拠は存しない。

してみると、買主である学校法人神野学園においては、前記売買契約書記載金額どおりに会計処理をしていることが明らかである。

(2)  第一物件の当時の適正な時価

第一物件の取得費、整地費等が被告主張のとおり一〇、六一八、五一三円及び二、七七四、九三二円であることは、前記のとおり当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二五号証ないし第二九号証、証人大口竹吉、同森田浩嗣、同深津進の各証言及び原告本人尋問の結果の一部によれば、次の事実が認められる。

神野学園は、中日本自動車短大を新設し、これを経営することを目的として、昭和四二年四月に設立された学校法人であり、原告は、右学園設立以来代表者理事長に就任しているが、原告は、右学園設立認可以前である昭和三九年に右短大敷地とする目的で第一物件を取得し、これを学校用地として整地していた。

ところで、当時、このような私立の新設校に対し、私学振興会から、校舎及びその用地購入費資金の融資を受ける制度があったので、神野学園は、原告から第一物件を校舎用地として購入するにあたり、この融資制度を利用すべく、振興会と事前接衝の上、融資申請に必要な書類を同会に提出(融資申請書類提出の経緯の詳述は後述)したが、その中には、中央相互銀行関支店作成にかかる第一物件の時価鑑定書が添付されており、右鑑定書の内容は、第一物件の適正時価は、一平方米あたり三、三〇〇円として契約書記載金額八八、七〇四、〇〇〇円を相当と認めるというにあった。

第一物件に隣接し、地形、状況共にほぼ同等な同字早稲田一、三〇一番の六(六、〇〇〇坪)は、もと、訴外東海近畿興業株式会社(代表者は原告)の所有であったが、同会社は、昭和四二年六月五日付で、神野学園に対し、前記短大敷地として坪当り一〇、〇〇〇円(一平方米当り三、〇三〇円)、総代金六〇、〇〇〇、〇〇〇円で売却していた。

第一物件の前記売買契約がなされた昭和四三年七月ごろは、原告が、右土地を取得したころに比し、近隣の地価は一斉に急上昇しており、昭和四二年度と同四三年度の地価上昇率の全国平均は一三・四パーセント(290,470-256,101)÷256,101) であり、昭和四二年に売買された前記第一物件の隣接地一三〇一番の六の土地の売買単価一平方米当り三、〇三〇円に、これを乗ずると、約三、四三六円強となり、第一物件の前記売買契約書記載代金額の一平方米当りの単価三、三〇〇円より上廻る数字となる。

他に、右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

以上に認定した事実によれば、第一物件の当時の適正時価は、一平方米当り三、三〇〇円を下らず、これを基準とする前記売買契約書の代金は、適正な時価と認められる。

右認定の職旨に反する証人大口竹吉の証言部分は信用できない。

(3)  第一物件の売買契約書作成に至るまでの経緯の詳細

成立に争いのない乙第四号証、証人大口竹吉の証言、右証言により成立を認めうる甲第一、第三号証、証人森田浩嗣の証言、右証言により成立を認めうる甲第二号証、証人真野景一の証言、及び原告本人尋問の結果の一部によれば、次の事実が認められる。

原告は、前記のとおり、神野学園の代表者理事長であり、同学園の設立に当り、あらかじめ、個人で学校用地を確保する等の努力をして来たが、私学振興会に対する融資申請手続は、専ら、学園事務局総務課長大口がその掌にあたっていた。同振興会の融資方針は、土地については、既に購入をなし、代金を完済した分についてのみ、その代金額の約半額を融資するというものであり、従って、融資申請に必要な書類としては、売買契約書以外に代金完済を証する売主作成の領収書等の提出を要求し、かつ、購入価格が恣意的に作為されないよう、適正な価格であることを証明する鑑定書の提出も要求していた。

原告個人としては、第一物件はもともと、自己が代表者理事長に就任して経営する学園の校舎用地とする目的で取得したものであり、取得価格及び整地費に若干の土地上昇分を見込んだ二〇、〇〇〇、〇〇〇円程度で学園に売却してもよいわけであったが、学園の代表者理事長の立場からすれば振興会からの融資は多額な程よいわけであり、そのためには、右二〇、〇〇〇、〇〇〇円を売買代金とするわけにもいかず(この場合の予想融資金は土地代として約一〇、〇〇〇、〇〇〇円となる。)加えて、売買代金額は適正な時価で定められることを要求されているところから、原告及び学園双方話し合いの上、第一物件の時価相当額である一平方米当り三、三〇〇円を基準に八八、七〇四、〇〇〇円を売買代金額と決定するに至った。

かくて、学園は振興会に対する融資申請書に、前記売買契約書(乙第二号証)、代金全額の支払を証する領収書(乙第四号証)と前記鑑定書等を添付して提出したが、右領収書等は、代金支払の事実はないが、振興会の要求にそうべく便宜作成された形式上の文書であった。

その結果、学園は、振興会から六二、〇〇〇、〇〇〇円の融資を受けることに成功したが、その内訳は、土地分三八、〇〇〇、〇〇〇円、建物分二四、〇〇〇、〇〇〇円であった。神野学園は、右融資金の中から、原告に対し、第一物件の土地代金内金として二〇、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、他は殆んど金融機関からの借入金の返済に充当し、原告に対する残代金六八、七〇四、〇〇〇円は、学園の会計上未払金勘定に計上した。

ところで、原告が、融資申請をなすに際し、一番心配したことは、第一物件の取得費、整地費に比し、売買代金八八、七〇四、〇〇〇円は、余りに高額となるところから、原告個人に多額な譲渡所得税が課せられるのではないかという点にあった。

この点について、原告は、振興会に融資申請書類を提出するに先立ち、自ら又は自己が代表者である東海近畿興業の経理担当者をして、当時の津島税務署長真野ないし同署の係官に税務指導を仰いだことでもあり、確答は得られないものの税務当局の寛大な措置を期待する外ないと考え、前記のとおり売買契約書を作成し、融資申請に踏み切った。

そして、第一物件購入に伴う前記のような学園の会計処理を明確にするため、昭和四三年一二月一六日に、学園理事会を開催し、以上のような未払金処理について諒承を得た。

以上の認定の趣旨に反する証人堀田茂の証言、原告本人尋問の結果部分はたやすく信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、原告個人としては、第一物件を二〇、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡してもよい意向があったことは明らかであるが、私学振興会からできるだけ多額の融資を受けるためと、適正な時価を代金としなければならないという融資方針にそうため、第一物件の代金額を時価相当額である八八、七〇四、〇〇〇円と定めざるを得なかったのであり、原告主張のように第一物件の真実の売買代金額は、二〇、〇〇〇、〇〇〇円であり、他は水増仮装であると認定することは困難である。

もっとも前掲甲第一号証(理事会決議録)中には、原告の発言として、第一物件は二〇、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡する趣旨の記載が存するが、右発言内容を全体として観察すると、二〇、〇〇〇、〇〇〇円以外は未払金として計上処理する趣旨の発言と解されるから、右甲第一号証は、前記認定に消長を及ぼすものとは言えない。

(4)  学園の会計書類上未払代金の決済状況の記載内容ないし、その裏付資料の存否について

前掲乙第一、第三号証、成立に争いのない乙第一九号証、第二三、第二四号証、深津進の証言によれば、次の事実が認められる。

名古屋国税局ないし被告係官の本件係争各年度の原告の所得調査は、昭和四六年一〇月から開始されたが、原告の要請により、神野学園関係は、後日にすることにし、先ず、原告の関係会社である東海近畿興業、津島瓦斯等の会社帳簿の調査から始められ、神野学園関係は、原告との合意により、昭和四七年一月一一日から始められることになった。

ところが、同年一月一〇日、原告は、刑事被疑事件について逮捕勾留され、神野学園の帳簿も警察に押収されてしまったので、一月中は、調査できなかったところ、二月に入るも、原告が釈放される様子がないので、被告係官等は、神野学園の承諾を得て、警察に押収されている学園の帳簿を閲覧調査したり、原告の息子二人と面接したり、原告と同様に逮捕勾留され、当時保釈中の学園会計担当者訴外三品明雄と、警察署内で面接し、学園の決算書類(乙第一、第三、第一九号証等)を同人に見せ、第一物件の未払代金として帳簿に計上されている六八、七〇四、〇〇〇円の決済状況について質問し、訴外三品の供述を録取した書面(乙第二三号証)を作成した。

右三品の供述録取書中には「右未払金中三一、九〇五、〇七一円については、学園設立当初から、昭和四五年三月末日までに、学園に対する他からの寄付金を原告が個人として預り保管していた金員(学園に対する原告の預り金返還債務)と、原告個人が学園に寄付することを約した金員で学園が受領していない五、〇〇〇、〇〇〇円(原告の寄付金支払債務)を原告において学園に支払うことを要しないこととし、加えて、学園設立当初から原告を含む全役員に対する報酬金として、原告個人に一括して小切手で支払っていた年額三、〇〇〇、〇〇〇円の割合の金員(これは本来その全額を学園に対する寄付金として役員から返済を受ける性質のもの)を学園に返済を要せず、全額原告の個人収人として認めることとし、これらを以って、前記未払金三一、九〇五、〇七一円と対等額で相殺したので、昭和四四年度の決算書(乙第一九号証)の負債中原告に対する土地代の欄には、未払金として三、七九八、九二九円が計上されている。」旨の記載があり、被告係官らは、その裏付け資料として、役員報酬として学園が昭和四六年八月五日付で振り出した小切手五〇〇、〇〇〇円が同年八月六日付で原告個人名で払出されていることを発見したが、それ以外には右三品の供述の真否について昭和四四年度の決算書に原告の未払金として三品供述のとおりの金額が計上されているのを確認したにとどめ、それ以上の裏付調査はしなかった。他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

以上認定した事実によれば、被告係官らは、三品供述中に述べられている、(イ)原告が預っていたとされている寄付金の存在を証する書面、(ロ)原告が五、〇〇〇、〇〇〇円の寄付を学園と約したことを証する書面、(ハ)役員報酬は全額が学園に返済されることになっていたのか、返済はその一部である旨の供述がある)、また役員報酬を原告の個人収人とすることについて他の役員の同意を得たことを証する書面、以上のような裏付資料の存否の調査は一切していないことが明らかであるから、原告に対する未払金の決済状況が、果して三品供述のように真実なされたか否かの点については相当強い疑念が生ずる余地のあることは否定できないところである。

(5)  以上に考察したところからすれば、第一物件の売買代金は原告と神野学園との間で、被告主張額のとおり八八、七〇四、〇〇〇円と決定されたのであり、前記売買契約書中代金額に水増仮装部分の存しないことは明らかであるが、右代金中支払済の二〇、〇〇〇、〇〇〇円を除く、六八、七〇四、〇〇〇円の未払代金決済状況は、必ずしも分明でないということになる。

しかしながら、所得税法三六条一項は、「各種所得金額の計算上総収入金額に算入すべき金額とは、別段の定めあるものを除き、その年において収入すべき金額とする」と規定されているところ、右収入すべき金額とは、当該年度において収入すべき権利の確定した金額をいい、これを不動産譲渡契約について言えば、右契約の効力が発生し、これにより譲渡物件の所有権が相手方に移転し、代金債権が確定的に発生したと認められるとき、右代金債権は、当該年度において収入すべき金額として確定したことになると解される(所得税基本通達三六-一二参照)。これを第一物件について言えば、前記昭和四三年七月一日付の売買契約は同日効力を発生し、第一物件の所有権は同日神野学園に移転したと認められ、第一物件の代金債権は、学園に対する昭和四三年分の収入金額として確定していることは明らかであるから、仮りに二〇、〇〇〇、〇〇〇円以外は未払であったとしても、右事実は、第一物件の譲渡価格を八八、七〇四、〇〇〇円と認定することの妨げとなるものではない。

してみると、第一物件の譲渡価格は、被告主張のとおりということになる。

なお、付言すれば、仮りに第一物件の売買代金が真実二〇、〇〇〇、〇〇〇円であったとすれば、第一物件の適正時価は、先に認定したとおり八八、七〇四、〇〇〇円を下らず、従って二〇、〇〇〇、〇〇〇円はその二分の一に満たない額であるから、所得税法五九条一項、同法施行令一六九条により、法人に対する低額譲渡として、当時における第一物件の適正時価である売買契約書記載の八八、七〇四、〇〇〇円と同額が譲渡価格とみなされるわけであり、いずれにしても、第一物件の譲渡価格は被告主張と同額である。

原告は、低額譲渡の認定をするについては、被告は、あらためて第一物件の時価の鑑定をしたうえでなすべきである趣旨の主張をするけれども、低額譲渡の認定について、右のような手続は法上要求されていないから、原告の右主張は、もとより採用できない。

(二)  第二、第三物件の譲渡価格について

成立に争いのない乙第五号証ないし第一五号証、第二〇号証ないし二三号証、証人深津進、同大口竹吉の各証言、原告本人尋問の結果の一部及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

神野学園は、昭和四三年五月ころ、訴外小川たま外一名共有にかかる道下の土地を同人らから購入しようとしたが、右土地は河川に接近しすぎており、学校用地としては不適格であることを理由に、私学振興会の融資の対象から除外されてしまったため、神野学園は右購入計画をとりやめ、その代替地として原告所有にかかる第二、第三物件を代金は第二物件四、七四五、四〇〇円、第三物件二四、五六一、六〇〇円(合計二九、三〇七、〇〇〇円)と定めて購入することとし、昭和四三年七月一日ごろその旨の売買契約が同学園と原告との間に締結された。

ところで、これより先神野学園が道下の土地の購入をとりやめたことに伴い、原告が、道下の土地を購入することとし、原告は同年五月一日付で訴外小川たまらとの間に代金を二八、五三〇、〇〇〇円とする売買契約を結んだ。

そこで、原告と神野学園との間に、同学園が原告に支払うべき第二、第三物件の代金のうち道下の土地代金相当分を同学園が原告のため訴外小川たまらに立替払いをなし、この方法により第一、第二物件の代金の一部決済をする、右以外の代金七七七、〇〇〇円は直接原告に支払うことなる合意が成立し、神野学園は右合意に基づき、右立替払及び直接払をなした(但し、右立替払は、当初東海近畿興業が訴外小川たまに小切手にて支払い、昭和四四年一月ごろ神野学園が同会社に右支払額を返済するという方法でなされた)。かくて、神野学園は、そのころ原告に対し、第二、第三物件の代金を完済した。

道下の土地は、昭和四七年一月二九日付で原告所有名義に移転登記された後に、原告から神野学園に譲渡され、昭和五一年一二月一四日付で神野学園所有名義に移転登記されている。

以上の認定の趣旨に反する原告本人尋問の結果部分はたやすく信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

右事実によれば、第二、第三物件は、原告から神野学園に対し、昭和四三年七月一日ごろ被告主張額で譲渡されたことは明らかであり、これに反する原告の主張は採用できない。

三、第三物件の取得費について

原告は、第三物件の取得費は訴外、竹内丈夫に支払った仲介料七、五〇〇、〇〇〇円が加算されるべきであるから、一四、四四二、七〇〇円であるとし、原告本人尋問の結果中、右主張にそう部分が存し、かつ、成立に争いのない乙第一七号証によれば、原告は、審査請求時に訴外竹内丈夫に、仲介料として二、〇〇〇、〇〇〇円を支払った旨主張していたことが認められるけれども、原告の右主張を裏付けるに足りる的確な資料はなく、右原告本人尋問の結果部分はたやすく信用し難いから、原告の右主張は採用できない。

四、給与所得金額中神野学園支給分について

原告は、被告主張のとおり神野学園から、本件係争各年度において、旅費、交通費、研究費名下に、年額八三八、三二〇円の支給を受けていることは認めたうえで、これら金員の実際の受領者は、訴外佐藤であり、原告は、名目上の受領者にすぎない旨主張するけれども、原告の右主張にそう原告本人尋問の結果部分は、後記採用の各証拠に照らし、たやすく信用し難く、他に原告の主張を維持するに足りる証拠は存しない。

却って、成立に争いのない乙第一〇号証、第一二号証、第二三号証、証人深津進の証言、原告本人尋問の結果によると、原告に前記名目で支給された金員の出所は、原告主張の原告が専決できる交際費等からではなく、正規の学園の会計から支払われ、諸給与内訳明細書なる帳簿に記載されていること、右金員は毎月一定額が支払われ、旅費等として実際に支出した証明書等の提出は要求されず、従って、過不足の精算など一度もなされた形跡は存しないこと、訴外佐藤に対しては昭和四三年一月から同年一二月までは月二〇、〇〇〇円、昭和四四年一月から同四五年三月までは月額一〇、〇〇〇円の金員が研究費等の名目で支給されており、同人は、同年三月に死亡していること、同人死亡後も原告に対しては、従前と同額の金員が毎月支給されていたこと、神野学園は昭和四六年八月分から、原告に対する支給分について源泉徴収税額を納付していること、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

右事実によれば、神野学園は、旅費交通費、研究費名下に、真実原告に右金員を支給していたことが明らかである。

そして、右金員の前記のような支給の方法に照らすと、右金員は、被告主張のとおり、所得税法第九条一項各号の非課税所得に該当しないことは明らかであるから、給与所得として課税の対象となると認められる。

五、以上に認定したところによれば、本件係争各年度における総所得金額中争点である(一)第一ないし第三物件の譲渡価格、(二)第三物件の取得費、(三)給与所得中神野学園支給分は、すべて被告主張額が正当と認められ、従って、別紙四記載の総所得金額の範囲内でなされた本件各更正処分及び国税通則法第六五条を適用してなされた各過少申告加算税賦課決定処分はもとより適法というべきである。

なお、原告は本件各更正処分等は、真野署長等被告税務署係官が原告に対しなした税務指導に背反する旨縷々主張するけれども、真野署長らが、原告主張のような税務指導をなしたと認めるに足りる的確な証拠はなく、却って先に認定したとおり、原告は、第一物件を神野学園に譲渡し、同学園が私学振興会に融資申請をなすに当り、原告個人に多額な譲渡所得が課せられるのではないかと心配し、真野署長らに税務指導を仰いだものの、確たる回答が得られず、税務当局から寛大な措置が得られるものと思い込んでいたにすぎないというのであるから、原告の右主張は、もとより採用の限りではない。

六、結論

以上の次第であるから、本件各更正処分等の取消を求める原告の請求は、すべて理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 浜崎浩一 裁判官 原田卓)

別表

課税処分表(昭和四三年分)

<省略>

別表

課税処分表(昭和四四年分)

<省略>

別表

課税処分表(昭和四五年分)

<省略>

別表

総所得金額計算表

<省略>

<省略>

別表

譲渡物件目録

<省略>

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